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チョウ温室を出て足元を見ると、ゴキたちがアレカヤシの葉の上等を悠々と歩いています。左上の写真です。
後をついていくと、左中央の写真のようなことに。
内部は本物と違ってネバネバしていないので、安心してお入り下さい。ネバネバしていませんが、左下の写真の通り粘着剤のような模様が床にあり、本物と同様ゴキの足の汚れを取る「足ふきマット」や誘因剤も置いてある懲りよう。
ホイホイから脱出したら、企画展の入口に向かいます。
あ、ホイホイには必ず入らなければならないわけではありません。でも、こんな大きなホイホイに入れる機会はそうそう無いので、カマダは迷わず入りました。飼い主は入りませんでした。人生損してると思います。言い過ぎか。
企画展に入る前に、目線を上げてみて下さい。右上の写真のようにガス焜炉(こんろ)や流し台があって、ゴキの住む流し台の下に入っていくような入口になっています。流し台の扉に見立てた顔出しパネルもあります。蝶番とか、芸が細かいわあ。人生をより楽しむために、顔を出しておきましょう(右下の写真)。
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左の写真は化石です。フランス産石炭紀のもの(左の黒っぽい3つ)とブラジル産の白亜紀前期のもの(右の茶色っぽい2つ)だそうで、くろごきくんとおおごきくんがそれぞれ解説してくれています。
くろごきくん:「石炭紀は3億年くらい前。恐竜がさかえる前、昆虫や両生類がさかえた頃やって。ぼくらゴキブリもこの時代にあらわれたらしいで」
おおごきくん:「白亜紀は1億年くらい前、恐竜がさかえてた頃みたい」
伊丹のゴキたちなので、口調も関西弁です。
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ゴキ基本情報の展示を見ながら進むと、昭和な台所にたどり着きます。ここは「くろごきくんのおうち」を再現したもの。
下の写真のうち、左はその全景。くろごきくんがツヤツヤテカテカしながら「えさがたくさん!」「何より水がほしい!!」「すべらない床」等、優良物件の条件を挙げています。
流し台の扉に目を遣ると、下の写真の中央のように「そぉ〜っとあけてな」「そぉ〜っとのぞいてな」と関西弁のゴキたちに依頼されます。そっと開けてくれ、覗いてくれ、と言われたからにはそのようにしてやろうではありませんか。
で、そぉ〜っと開けて覗いたのが上の写真の右。おおかた予想はしていても、うわあ、と戦(おのの)くこと必至。調味料等の周りを本物の生きたくろごきくんたちがうぞうぞ生活しています。見やすいように、奥に蛍光灯が設置されています。「生態に忠実」と「趣味が悪い」の両方を兼ね備えた素晴らしい展示です。素晴らしいが、かなりアレです。一応、調味料とくろごきくんたち一式は水槽で飼われていますので、こっちの世界に出てこられません。頭では分かるのですが、ぞっとしますな。開けた時と同じく、そぉ〜っと閉めておきましょう。
他にも、引き出しや流し台にも工夫があります。現地にてお楽しみ下さい。
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右の写真は「ボクらに近い昆虫は?」。「昆虫のなかま分け」が分かりやすく示され、おおごきくんが「人気者のカマキリと近いんやぁ〜♪」と頬を赤らめて喜んでいます。くろごきくんは「むかしはバッタのなかまに、ナナフシ、カマキリ、ゴキブリ、ガロアムシがはいってたんやって」と蘊蓄を披露。博識ねー、とガロアムシを知らないカマダは思いました。
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また、隣には「こがねむしはゴキブリだ!?」という衝撃的な展示があります。
卵のカプセルをがま口の財布に見立てて、または台所にゴキブリの食べ物がある家はすなわち金持ちであったこと等からゴキブリのことを「黄金虫」と呼ぶ地方があり、野口雨情作詞の童謡「黄金虫」はゴキブリのことではないかとする説がある……というもの。
へー、知らんかったわー。そうかも知れないと思いながら口ずさめば、違った感慨がこみ上げます。
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展示は野外生息種に移ります。右の写真は「山にくらすおともだち、おおごきくんのところに行ったよ!」。
くろごきくん:「やあ、おおごきくん ひさしぶり〜」
おおごきくん:「まいど おおごきです。家にくらすゴキブリは少数派。ぼくらみたいに山にくらすなかまの方が多いねん」
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おおごきくんは「森でひっそりくらして」いるのだそうです。人家に入る種類はゴキブリ全体から見ると少数派で、大多数は野原や森で朽ち木を食べながらトンネルを掘って生きているとのこと。カミキリムシのようなものだと思えば親しみも湧こうというもの。
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また「ただいま実験中です」ということで、平成22年1月10日から湿らせたクヌギ(ほだぎ)5本とヤエヤマオオゴキブリ20匹を入れた飼育ケースも展示されています(左の写真)。我々が訪れたのは3月8日ですから、実験開始から約2ヶ月経過しています。既に右側のケースのほだぎはボロボロになりつつあります。比較対照のケース(左側)には無い木屑が、たくさん出ています。
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左の写真には「ゴキブリをつかまえてみよう!」というタイトルで、ゴキ捕獲のハウツーが解説されています。以下転載。
「ゴキブリは、人間が寝静まった夜に活動するため、いざつかまえようと思ってもなかなか見つかりません(会いたくないときには、わらわら出てくるくせに……)。やっと見つけても、狭い室内をすばやく動き回り、すぐに物陰に逃げ込んでしまうため、アミや手でつかまえようと思ってもむずかしく、なかなかうまくいきません。でも安心してください、ゴキブリ捕獲用のトラップ(わな)を作って設置すれば、簡単につかまえることができるのです」
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文中「(会いたくないときには……)」という記述が見られます。あら、昆虫館の職員さんもゴキとは一定の距離を置きたいのかしら? いや「でも安心してください」ですって安心も何も、そもそも「つかまえてみよう!」とビックリマーク付きで解説してくれている辺り、やっぱり……なんてツッコんだり勘ぐったりしながら楽しく読むのが良かろうと思います。
続いてゴキブリトラップの作りかたも写真付きで分かりやすく解説され、ああ森の平和なおおごきくんを捕まえるんだなと思いきや「台所などのゴキブリが隠れていそうなところに置けば、きっとゴキブリがじゃんじゃんとれるでしょう」と景気の良い文章で締めくくられています。家に来るほうのゴキを捕まえよといざなわれているのです……「じゃんじゃん」って。
とらえてどうするのか。隣を見ると「ゴキブリを飼育してみよう!」という記述がありました。写真は割愛しますが、以下のように書いてあります。
「クロゴキブリの飼育ケース
クロゴキブリはゴキブリ飼育の基本、マスターすればいろんなゴキブリが飼えるよ!
ほかの昆虫と一緒ですが、飼い始めたら、最後まで責任をもって飼育してね!」
ということだそうです。やや小さく、オオゴキブリの飼育についても述べられています。
基本か……そしてマスターか……。これを読んで「お母さん、僕 ゴキブリ飼いたい」という子供が居たら、快くOKしてくれるお母さんが世の中にどれだけ居るでしょうか、と他人事ながら心配です。私がお母さんだったら、OKして協力してあげられるだろうか……うーん、うーん……。
「最後まで責任をもって」というのは、たった一行ですが本当に伝わってほしい大切なメッセージです。一度飼うことに決めたら、幸せにしてやって下さい。
ということで、上の写真はトラップ・飼育ケースの見本です。見本ですが、ケースの中ではリアルにゴキたちが元気に育っています。
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いっぱい書いてきましたが、展示はまだまだ続きますよ。
右の写真は標本。こんな感じでずらーっと日本と世界のゴキたちの標本が並んでいます。
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もちろん生体の展示もあります。野外生息種か害虫種かも明記されています。
左の写真は、左からトビイロゴキブリ、ワモンゴキブリ、コワモンゴキブリ。全部害虫種です。今までこうやって種類別にまじまじと見たことがなかったので、新たに気付くこともあります。むべ「輪」の「紋」があるゴキブリをワモンゴキブリといふらむ。
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上の写真の右側はアルゼンチンモリゴキブリという野外生息種。「デュビア」という名前でペットショップでよく見かけます。おお、デュビアってアルゼンチンの森に住むゴキブリだったのか! とカマダも飼い主も初めて知って新鮮な驚きです。
他にも、害虫種ではチャバネゴキブリ・トウヨウゴキブリ、野外生息種はモリチャバネゴキブリ・トルキスタンゴキブリ・オガサワラゴキブリ・サツマゴキブリ・キョウトゴキブリの生体が同様のケースで展示されていました。
「キョウトゴキブリ」という種類は今まで全然知らなかったし、京都府のレッドデータブックで「要注目種」とされるほど減少傾向にあるということも初めて知りました。
野外生息種なので直接人間に悪さをすることは無いと思いますが「このゴキブリは数が減ってきているので保護しましょう」と呼びかけても、賛同してくれる人は少なそうだなあ。カマダは別にゴキブリ好きではないけれど、なんだか気の毒に思いました。
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左の写真は「顕微鏡でみてみよう!」のコーナー。標本が何種類かあり、顔やお尻や足の爪なんかも拡大して見ちゃおうという企画です。今時の顕微鏡ってこんなのになってるのか……カマダが小学校の理科で使いかたを習ったヤツと全然違う……。
右の写真は「ぬりえコーナー」。テーブルの上に下絵とカラーペンシルがあり、好きに塗って持ち帰ることができます。
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いよいよ展示も出口に近付いてきました。神戸大学農学部昆虫科学研究研究室やアース製薬の研究室に取材した様子も展示されていて、とても興味深い内容です。
右の写真は「こんなおうちは苦手かも……」。ゴキが嫌う環境・好む環境が書いてあります。一連の展示では、退治の方法や、それ以前に家に入れない、住まわせない工夫が示されています。生態や習性を知ることで、防げることが色々あるようです。お悩みのかたはまず敵を知ることから始めてはいかがでしょうか。
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以上、企画展「ごきぶり」でした! ……って、あれ? ヤエヤマオオゴキブリとのふれあいコーナーは? カマダの中ではメインイベントだったんですけど……飼い主はもう全部回ってぬりえコーナーの椅子に座って寛いでいるし。
心残りなので、もう一度展示室内を一周。すると、見つけました。オオゴキブリを紹介する記事の辺りに切り株のような大きなテーブルがあり、その中央に衣装ケースが据えられています。そうか、おおごきくんの記事を読むのに熱中したり ほだぎの実験中ケースに夢中で、このテーブルに気が付かなかったのか。
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飼い主にも声をかけてワクワク駆け寄ると、やったー「ヤエヤマオオゴキブリにさわってみよう!」って書いてあります(左の写真)!
「ヤエヤマオオゴキブリは、南の島の森にすむ、とてもおとなしいゴキブリです。家の中のゴキブリとちがって、きたなくありません! 安心してさわってください!」
おおごきくん:「デリケートやから そっと、やさしく、さわってあげてな。たのむで〜!」
「さわったら、元のケースに、やさしくもどしてくださいね!」
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わーいわーい、安心してさわれるんですって、とテンション最高潮のカマダ。なぜ私はゴキブリをこんなに触りたがっているのだろうか? 自分でもよく分かりませんが、もう落ち着くことは出来ません。一人で盛り上がってしまいます。
しかし、衣装ケースには蓋がしてあって、4カ所が養生テープで留められています。蓋の上には「ただいま おやすみ中 ごめんなさい……」の大きな赤い文字が。
そうか……それはしょうがない。テーブルの写真だけ撮って今日はもう帰りましょう。
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諦めて立ち去ろうとしたその時、会場内を巡回していた職員さんに「さわりますか?」と話しかけられました。
「おやすみはもういいんですか?」と尋ねると「もう十分休息できたと思います」とのこと。ゴキも触られっぱなしだと疲れてしまうので、定期的に休ませているのだそうです。接客は疲れるのです。申し訳ない、ゴキに。君たちの体調も考えずあんなにはしゃいでしまい、反省したよ。
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カマダがテンションを上げ下げしている間に職員さんは蓋を開け、土(? 木屑?)の中に指を入れてゴキを探し出してくれました。
そうして手に載せることが出来たのが左の写真です。イエーイ! 大きいけど軽くて、足の爪がやんわり私の指を掴んでいます。家で出くわすゴキのような素早さはなく、寝起きなのか ゆっくり歩きます。クワガタムシが指の上を歩いているような感じです。
記念写真を撮ろうと思いますが、うっかり右手に載せたのでカメラがあわあわあわわわ。飼い主に撮ってもらおう、と振り向くと、さっきからあった人の気配は見知らぬ若いお嬢さんがたでした。
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その頃 飼い主は展示室の対角線上の向こう、ぬりえコーナーに戻っていました。しょうがないのであわあわしながら自分で撮りました。早くゴキをケースに戻してやらねばと焦るとピンぼけ写真に。2枚撮ったうちの、まあピントが合ったのが上の写真です。羽がないので幼虫でしょうか。とにかく、写真も撮れたのでまたケースに返しました。
いやあ満足満足。声をかけて下さった職員さん、ありがとうございました。
展示室を出て、トイレで手を洗ってアルコール消毒して、昆虫館を出ました。きたなくないゴキですが、手は洗います。カマダは、虫に限らずイヌネコでも、他の生き物を触った後は手を洗いたい派なのです。可能なら触る前にも洗います。
帰りの車中、飼い主に「触らなくてよかったの?」と尋ねると、飼い主的には触りたくて来たわけではなかったということが分かりました。あらまあ、そうだったの。
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