石川町の南口の改札の出口(元町側のメインではない方)を出て
右へ少し行くと「もうひとつの学校」と看板の出ている建物があります。
塾なのか学校なのかよくわかりませんが、調べてほしいです。気になります。

勉強はもちろん、コミュニケーションスキルや集団規律など、
本来学校で身につける能力を総合的にカバーする学習塾。
ゲームや社会見学も行っている。

ライター:河野 哲弥 (2013/12/25)

まずは、現場の確認から

朝夕の登下校時ともなると、大勢の女学生で埋め尽くされる石川町。
そんな街に、「もうひとつの学校」があるという。
投稿内容を手かがりに、まずは現地の様子を確認しておこう。
 


JR石川町駅の南口を出て、右へ歩き始める
 

徒歩1分ほど、通りの右側にこんな看板を発見

確かに「もうひとつの学校」と書いてある。
見た目は学習塾のようだが、学校とは何が違うのだろう。
その名称には、特別なメッセージが込められているに違いない。
改めて、取材を申し込んでみることにした。
 


原点は、小学生時代の「ミニ先生」?

話を伺ったのは、この施設の経営者であり、横浜教育研究社代表取締役の小嶋友明(こじまともあき)さん。
まずは単刀直入に、「もうひとつの学校」とはどのような意味なのかをたずねてみた。
すると、「家庭のような会話を楽しむ場でもあり、学校のような集団の規律を学ぶ場でもあり、塾のような勉強をする場でもある」とのこと。
 


生徒からは「コジコジ」の愛称で呼ばれる小嶋さん


どうやら、既存の学校というシステムでは補えない、ある種の素質を身につける「場」であるようだ。
それをカバーする学習塾といったところか。
しかし、これだけではピンとこない。
「もうひとつ」に込められた意味を探るためにも、設立の経緯から説明してもらうことにしよう。

横浜出身だという小嶋さん。
小学生のころは、よく友だちから「勉強を教えて」と頼まれることが多かったそうだ。
クラスの担任も公認で、「ミニ先生」という補佐役のような役割を任されていたらしい。
「『授業よりもわかりやすい』なんて言われるのがうれしくて、そのときから、いずれ先生になろうと考えていたんです」とのこと。

ところが、大学で実習や児童支援活動を行うにつれ、
教師を含めた公務員が持つ「自由度のなさ」を知ることになった小嶋さんは、目指していた理想像との隔たりに直面した。
「例えば算数だと、九九でつまずく子どもが少なくないんです。
わかるまで教えてあげればいいだけの話なのに、学校はカリキュラムに沿ってどんどん進んでしまう。
後戻りがなかなかできないシステムになっているんですね」。
 


同塾の入る建物外観、看板と赤いテントが目印


また、二度と取り戻すことができない学生時代を、
勉強だけで過ごさせてしまっていいのかという疑問も、小嶋さんの中にはあった。
そこで、自由な民間組織に可能性を見いだそうと、ひとまず一般企業へ就職。
組織作りや経営のノウハウを学ぶことにしたそうだ。



人事産業で学んだのは、「人を大切にする」という基本姿勢

小嶋さんが入社したのは、人材派遣サービス業大手の「リクルートスタッフィング」だった。
なぜなら同社は、「人」が持つ可能性に並々ならぬ情熱を持っていたからだ。
「人を大切にするとは、その人の話を最後まで聞くということではないでしょうか。
『おかしいな?』と思っても遮らず、相手を尊重して話し終わるまで傾聴する。
あの会社には、そういう社風があるんですよ、すごいなと思いましたね」と小嶋さん。


一方で、諸先輩の遊びにかける情熱も、「ハンパなかった」とのこと。
「夜遊びをしている人ほど営業成績がいいって、よくある話じゃないですか。
知らなかったら『0』だけど知っていれば『1』、
『0』はどんなに掛け算をしても答えがゼロ、
一方『1』は経験を積み重ねた分だけ人間の幅が生まれる。
そうした仕事と関係ない部分がアイデアや発想の転換につながり、売上に結びついたりするんですよね」と話す。
 


思っていたより広々とした、室内の様子


ある程度イメージが固まった小嶋さんはその後、横浜市の職員として6年間、小学校の教員を務めた。
1年生から6年生まで、すべての学年を担当すると、改めてやるべきことが見えてきた。
こうして2006(平成18)年、横浜教育研究社を設立。
その業務内容のひとつとして、「もうひとつの学校」をオープンさせた。




どんな授業をしているの?

では、いよいよ活動内容を見ていこう。
小嶋さんによれば、学校教材、市販の参考書・過去問題集などを中心に、
ときにはオリジナルの素材を用意して、授業を行っているそうだ。
ただし、遊びの要素を取り入れたり、上級生が下級生を教えたりする、自由な校風が特徴となっている。
 


学年もまちまちな授業風景の様子
 

例えば、遊びの要素であれば、「運と実力」のゲームなどが代表的。
これは、テストの点数(実力)に応じて抽選(運)を行い、期間中の獲得ポイントが最も多かった人に景品が贈られるというもの。
 


例えばテストで100点を取れば、3回ビンゴが引ける
 

出てきた球の番号が、獲得ポイントになる


また、知らなかったら「0」だけど知っていれば「1」という発想のもと、
地元商店街の各店舗を巻き込んで社会見学を行うことも。
中華料理店「旭酒楼(あさひしゅろう)」で行われた様子は、フジテレビ系列のバラエティ番組『ホンマでっか!?TV』で紹介された。

同塾の授業は曜日と時間帯が選べるようになっていて、料金は週1コマ45分あたり月額8000円。
生徒は、小学生を中心に中学・高校・大学生まで。
その範囲は、英数を中心とした小中高の各教科と、大学の就職ガイダンスなど、実に多彩。
なお、入塾のきっかけは、成績が伸びている子を見習って、その親から紹介されたケースが多いらしい。
 


算数のテスト一例、地頭が試される内容となっている


「今、子どものコミュニケーション能力が問われているようですが、
場所さえ与えれば、彼らはしゃべるようになるんです。
生徒同士はもちろん、私から話しかけることもありますしね。
ところが、ひとりで勉強ばかりしていると、その機会に恵まれない。
ですからウチでは、『まず遊び、そして学べ』なんですよ」と小嶋さんは続ける。
 


現在の学校に欠けている部分を補う、「もうひとつの学校」


もちろん、道徳教育や集団生活に必要な規律についても、指導している。
「テストの採点中にポッと出た会話がきっかけになることが多いですね。
なぜケンカになってしまったのか、
どうして親の言うことを聞かなくてはいけないのかなど。
そういうときは、授業をいったん中止して、全員で議論を深めることも。
生徒のお母さんが、議題や相談を持ち込んでくることもありますよ」とのこと。
 


現状の問題点と、これからの課題

最後になるが、小嶋さんに、「もうひとつの学校」のコンセプトをたずねてみた。
すると、「家(コミュニケーション)のような、学校(集団生活・規律)のような、塾(勉強)のような場所」であるそうだ。

子どもたちには、知識を詰め込むばかりではなく、どう関連しているかという「頭の訓練」も必要。
それらを年代や環境が異なる集団生活の中で、社会見学や会話をしながら身につけていく。
それが、同塾のねらいなのだろう。
 


勉強で基本を覚えた後、手品師をゲストに迎えて応用を会得
 

一方で、「塾なんだから、余計なことをせず、点が取れるようにしてよ」というスタンスの保護者もいるそうだ。
また、事業の継続性が1人の身にかかっているところにも、問題点を感じる。

この点について小嶋さんは、「保護者の方には、丁寧に説明するしかないでしょう。
事業については、フランチャイズの話も出ましたが、マニュアル通りの仕事というわけではないので悩んでいるところです。
実は、最初の卒業生がそろそろ20歳を迎えます。
後継者とは言わないまでも、ひそかな期待を寄せているんですけどね」と話す。

周囲の理解と次世代の育成、
どうやらこの両者が、これからのカギとなりそうだ。
今後、卒業生たちがどのような大人に育っていくのかも含めて、温かく見守っていきたい。


―終わり―
 
◆株式会社横浜教育研究社(もうひとつの学校)
http://mouhitotu.com/
横浜市中区石川町 2-69
Tel/045-681-2616

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