坂本洋子

よつば著作・メディア

「私の視点 ◆民法 10年も差別規定に手つかず」
『朝日新聞』朝刊 2006年2月21日(火)掲載

(ウェブ掲載にあたり、『朝日新聞』の許諾を得ています。)

 選択的夫婦別姓制度導入や婚外子相続差別撤廃などを盛り込んだ民法改正は、法務 大臣の諮問機関である法制審議会から96年2月26日に答申され、今年でちょうど10年 を迎える。
 この間の歴史を簡単に振り返ると、答申当時は、政府提出法案として通常国会に提 出されると誰もが期待したが、自民党の一部の強硬な反対で見送られてしまった。そ こで、民法改正を望む全国の市民やNGOが集会やロビー活動を行い、翌97年の法案 提出に向け各方面に働きかけた。
 当時は自社さ政権で、自民党の実力者だった野中広務氏が推進役となり尽力した が、自民党がまとまらず政府案としての提出を断念した。社民党とさきがけは議員立 法を目指し、衆議院では民主党案が審議されたものの、提出されたす べての法案が廃案となった。
 その後、自民党を除く各党が何度となく法案を提出しているが、継続、廃案、提出 を繰り返すばかりで民法改正は実現していない。
  私は責任の大半は自民党にあると思うが、その自民党においても、夫婦別姓については認めようとする動きが01年から02年にかけて活発化した。01年5月に内閣府が行った世論調査で、通称も含めて結婚後も別姓を名乗れることに賛成する人が65%に上った。こうした世論を受け、02年7月には自民党有志議員による「例外的に夫婦別姓を実現させる会」が発足し、党の要職経験者らも名前を連ねた。しかし、又も反対派に阻まれたのだった。
  ところで、日本は様々な国連の条約を批准しているが、締約国の責務である国内法の整備を怠っているため、各種の勧告を受けている。夫婦別姓を認めていないことだけでなく、女性のみの再婚禁止期間や婚姻年齢の男女差についても、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)から勧告を受けている。
  また、婚外子の相続差別については前記の委員会のほか、自由権規約人権委員会、子どもの権利委員会が差別撤廃を勧告してきた。とりわけ、子どもの権利委員会は、「嫡出(正統を意味する)でない子」という差別的用語を改めるよう求めている。
  これに呼応するかのように、04年10月には最高裁判所小法廷の5人の裁判官のうち2人が「非嫡出子の相続」について違憲と判断し、さらに裁判長も「法改正が速やかになされることを強く期待する」と述べている。
  昨年、韓国国会では男尊女卑の考えに基づく戸主制廃止が決まった。また、夫の姓しか名乗ることができなかったタイでは、昨年1月、選択的夫婦別姓を認める法改正が行われた。日本とともに常に名前が挙がっていたトルコも01年にすでに法改正をしており、今や夫婦同姓を強制しているのは日本くらいだ。
  また、婚外子の相続差別を民法で規定しているのも日本とフィリピンだけという。ユニセフは子どもに対する差別を六つ挙げ、その一つに日本の婚外子相続差別を挙げている。世界の流れは嫡出概念をなくす方向にあるが、これらの事実を知っている国会議員はどれほどいるだろうか。
  今年はCEDAWの審査を受けるための政府リポート提出の年である。日本が国際社会で名誉ある地位を占めたいと思うなら、そろそろ差別的な国内法を国際基準に合わせないと人権後進国のレッテルを貼られかねないのではないか。


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