坂本洋子


「『離婚後300日規定』こう考える 子供の救済が最優先」
『毎日新聞』2007年5月9日朝刊



(掲載を許可していただいた『毎日新聞』編集部に感謝します。)

◇子供の救済が最優先

−−問題にかかわるきっかけは。
◆05年春、離婚後妊娠で291日目に出産した神奈川県内の20代後半の女性の夫からmネットに相談を受け、問題を知りとても驚いた。法務省に働きかけるなどしたが、事態は動かなかった。

−−法務省通達が出たが。
◆一歩前進だが、離婚前妊娠は従前通りで救済幅が狭い。規定は父親を早く確定するためにあり、親の不貞行為を責めるものではない。親の責任は重いが、戸籍がないのは子供が悪いのではない。刑罰も親子に連帯責任を負わせていない。子供の救済を優先すべきだ。

−−離婚前妊娠について「親の責任。不本意でも前夫の戸籍に一度入れるべきだ」との意見もある。
◆離婚の理由はケース・バイ・ケースで、こじれる場合が少なくない。仮に戸籍が訂正できなければ、子供の一生は悲惨なものだ。「そういう親の子だから子供に戸籍がなくても仕方ない」との考えには冷たさを感じる。

−−どう救済するか。
◆最高裁は、結婚生活が事実上破たんしている場合には父親の推定は働かないとの判断を示している。破たんを一律に基準を作って判断するのは難しいが、別居を証明するなら住民票だけでなく、DV(ドメスティックバイオレンス)が背景にあれば保護命令の書類の提出を求めるなどの方法はあると思う。

−−DNA鑑定の是非は。
◆「家庭の平和を壊す」との理由で無条件に反対する考えには賛同しない。運用は離婚後300日規定に関するケースだけで、すべて実施するわけではない。子の利益のために鑑定するのだから、当事者に異存がないなら一つの手段だ。

−−政治家の議論に望むことは。
◆民法は各所にほころびが出ているが、改めるのに非常に時間がかかる。緊急課題が生じたら、まず早期救済の方法を検討すべきだ。特例新法を検討した与党のこれまでの取り組みは評価する。苦しむ人の声を聞き反映させるのが国会議員の役目。一人でも多くの人を救うため努力してほしい。<聞き手・工藤哲、写真・木葉健二>=おわり


◇離婚後300日規定に関する最高裁判例
法務省は、民法772条による父親の推定を受けない一般的ルールとして、00年3月14日の最高裁の判決が示したケースを挙げる。判決は、妻が妊娠したとされる時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われているか、遠隔地に居住して夫婦間に性的関係を持つ機会がなかった−−ことが明らかな場合としている。


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