坂本洋子


無戸籍・無国籍・婚外の子ども差別 法の壁知り解決を ブックレットを出版
『朝日新聞』2009年3月21日朝刊



(ウェブ掲載にあたり、『朝日新聞』の許諾を得ています。)

 家族のあり方が多様化している一方で、法律や制度の見直しが追いつかず、戸籍や国籍がない子どもたちがいる。
 「法に退けられる子どもたち」(岩波ブックレット)にこの問題をまとめた坂本洋子さん(46)は「子ども本人には、どうすることもできない。私たち大人が現状を知って、解決していかなければ」と訴えている。
                             (佐々木幸子)

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 衆院議員の秘書を務めていた00年に「mネット・民法改正情報ネットワーク」を仲間と立ち上げた坂本さんは子どもや女性への差別問題に取り組んできた。
 「戸籍がない子ども」が生まれる背景には、「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定する」という民法772条の規定がある。離婚が成立する前に別居期間があり、今の夫の子なのに、子どもを戸籍に入れられないためだ。07年の通常国会で法改正の動きがあったが、「前夫との離婚後に妊娠した」と医師が証明すれば、現在の夫の籍に入れられるという通達にとどまり、救済されないケースも出ている。
 「国籍を与えられない子ども」については、最高裁の違憲判決を受け、昨年12月に国籍法が改正。日本人の父と外国人の母の間に生まれた子どもは、結婚していなくても父親の認知さえあれば、日本国籍を得られるようになった。
 ただ、偽装認知への懸念が高まり、父が一緒に写った写真の提出やDNA鑑定を検討するよう求める付帯決議がついた。当事者からは、「以前から認められていた胎児認知の手続きが厳しくなった」「ほかに家庭を持っている父親の協力が得にくい」という声もあがっている。
 国籍法の婚外子差別はなくなったが、民法上の婚外子差別は残ったままだ。法律婚をしていないカップルの子どもは、法律婚をしているカップルの子どもの半分しか相続できない。
 法務省によると、婚外子の相続差別がある国としては日本とフィリピン以外には把握していないという。ユニセフが挙げる子どもへの差別の6事例には、インドのカーストやHIVなどとともに日本の婚外子の法定相続の差別も含まれている。
 「男性系統重視の家意識が脈々と生き続けており、これら3つの問題は根っこでつながっている」と坂本さんは指摘する。
 母子家庭で育った坂本さんは「男性がいない家庭は地域で軽んじられる」と肌で感じたという。多感な中学時代、母の再婚で名字が変わり、受け入れるのに時間がかかった。故郷の熊本で町職員として戸籍業務に携わり、家制度の名残があると感じたことも、こうした問題に取り組むきっかけになったという。
 「これから法律を勉強する学生さんにも読んでもらいたい」と話す。税抜き480円。

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■救済されなかった例
 岡山県内の20代の女性が1月26日、現夫との間に生まれた女児の出生届を不受理としたのは「 法の下の平等」を定めた憲法14条に違反するとして、市と国に330万円の損害賠償を求め、岡山地裁倉敷支部に提訴した。
 女性は前夫の暴力がもとで06年9月に別居。10月には岡山地裁から保護命令が出て接近禁止に。07年10月に岡山家裁で離婚が認められた後も前夫が控訴し、08年3月の離婚成立まで訴訟が長引いた。女児の出産は11月。妊娠は2月ごろで、法務省の通達でも救済されず、市側は出生届を受理しなかった。
 その後、無戸籍の状態を解消するため認知調停が成立し、女児は2月27日に戸籍を得た。原告側の作花知志弁護士は「離婚成立前の妊娠でも、長時間別居しているなど事実上、妊娠が不可能で個別に救済された先例がある。調停に持ち込まなくても救済される範囲を、訴訟の過程で広げていきたい」という。


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